遺体のクーリング

遺体腐敗の原因は、体内常在細菌群

遺体の腐敗は体内の常在細菌群により起こります(後期では他もあり)
心肺機能停止により、体内のガス分圧は嫌気性優位となり、pHはアシドーシスに傾倒をして行きます
そのために、好気性細菌群は減少をして、嫌気性細菌群が増加を続けて体内細菌叢(細菌フローラ)は崩壊をします
その結果として、腸管内の通性嫌気性細菌群が異常増加をして、脈管を通じて全身に拡散をして、全身の腐敗へと発展をします
 
腐敗の原因細菌が体内の常在細菌群であるために、これらの細菌を死亡前や死亡后に取り除く事は事実上困難であり、死亡后に遺体内の滅菌を行う事も困難です(系統解剖遺体では可能)
そのために、これらの細菌群の生育環境を管理をして、腐敗原因細菌群が繁殖を出来ない環境を作る事が重要です
そのために、最も簡単で確実な方法は冷却であり、細菌の繁殖温度以下にする事で、細菌の繁殖・増加を抑制をします



細菌は至適温度域でしか活動不可

生体における細菌群は病原性細菌を含めて、中温細菌群です
中温細菌群の繁殖温度は 20 〜 40℃であり(25 〜 45℃、25 〜 37℃)、
最適繁殖温度は 30 〜 37℃であるために、体温域が最も細菌の好む温度です
生体防御機能として感染時に体温を上げて、細菌に対抗をします
厚労省やFDAでは、細菌培養温度として 35 〜 37℃と定めています

死後の腐敗も同じく中温細菌群が原因であり、死後速やかに最適繁殖温度域を脱して、繁殖温度以下にする事で通常遺体の腐敗は防げます
劇症型変化を起こすハイリスクな患者さんに対しては、通常遺体よりも適切なクーリングを行わなければ、死后6時間程度から激しい変化が現れます


クーリングは対象臓器を冷す

遺体の腐敗は腸管内常在細菌群が主な原因であり、肺の常在細菌群による部分は僅かです
そのために通常遺体に対するクーリングは、胸腔内と腹腔内を対象として行います(比率は胸3:腹7程度)

胸腔は左右の肺が対象臓器であり、心臓は重要ではありません
腹腔は腸管が対象であり、空腸、回腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸を対象としてクーリングを行います
60kg程度の通常遺体であれば、左右胸部に各1個、臍から上に1個、臍から下に1個のアイスノンを載せれば、短時間で胸腹腔内温度は最適繁殖温度域以下となり、30分程度で生育温度域以下になります

通常遺体のクーリングでは、基本的方法は4個使用(胸2個、腹2個)ですが、最低でも2個(胸1個、腹1個)のアイスノン等の蓄冷剤が必要です
在宅等で蓄冷剤が無い場合は、氷でも可能であり、コンビニに行けば数百円でロックアイスも購入が出来ます



遺体を冷す温度とは?

一般的に冷蔵帯温度は 20 〜 - 5℃であり、中温細菌群の繁殖温度以下です
5 〜 - 5℃がチルド帯温度(家庭の冷蔵庫も同様)となります
遺体に最適な温度は5℃(5±1℃)であり、4℃を推奨をします
E.coliの繁殖下限温度は5℃であり、
5 〜 6℃であっても繁殖は殆ど見られませんが、遺体管理学としては4℃が理想的な管理温度です

多くの病原性細菌における繁殖温度域は更に狭く、25℃以下では急速に死滅する病原性細菌もあり、公衆衛生的見地からも遺体のクーリングは有効な対策です

尾道市民病院(広島県)や日本海総合病院(山形県)では,患者さんの死亡時には速やかにクーリングを行い,退院時の葬儀社による搬送時にも蓄冷剤を2 〜 4個を遺体の胸腹部に載せた状態で葬儀場や自宅に帰ります
遺体のクーリングは、次の遺体管理処置が行われるまで継続が基本であり、葬儀社が冷蔵庫やドライアイス、エンバーミング等を行うまでは持続をしなければ、細菌繁殖は再び始まります

冷蔵庫の中から肉や魚を出して放置すると腐敗をするのと同様に、遺体に関しても遺体安定期を迎える前に適切管理を停止をすると、腐敗が一気に進みます
そのために、尾道市民病院や日本海総合病院から退院をした遺体では、悪化が非常に少なく、遺体の腐敗が殆ど見られません
一方で、適切な処置やクーリングを実施していない病院からの遺体の悪化は今も続いており、どの病院で死を迎えるかも遺体予后を左右をします


ナース専科12月号にて説明
委細は12月号で確認

遺体管理学者としては、
 尾道市民病院か
 東京都健康長寿医療センターで
 人生最後の看護を受けたい

ヒトは生まれる場所、生まれる時、
親を選べません
ヒトは自死以外は死ぬ時、死の原因を選べませんが、死ぬ場所は選べます
ヒトにとって、終焉の環境は大事

ヒトにとって、死は避けられない事実であり、死に向き合う医療、死に対応をした看護の責務です

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